今回は、エルピクセル株式会社の代表取締役である島原佑基氏へのインタビューです。
エルピクセル株式会社は、東京大学大学院出身の研究者である島原社長と研究者で設立されました。ライフサイエンス、AI画像解析、といった分野で大きな強みを持ち、昨年は、オリンパス、富士フィルム、キャノンメディカルから30億円の出資を受けると同時に、共同研究も開始しています。
また、エルピクセル株式会社は、2017年Forbesのヘルスケア&サイエンス部門でアジアのトップの評価を受けています。21世紀の日本のGoogleになる可能性も持つ企業です。島原社長の言葉を直に伝えさせて頂きます。
会社の始まりはどのようなことからでしょうか?
東京大学の研究室メンバー3人で作ったのが始まりです。
私自身についてお話をすると、元々、車を作りたいというところからスタートしています。今後、運転は自動運転になるだろうと思い、21世紀に必要とされる新しい自動車のエンジニアになりたいと思いました。ただ、高校生の時に、iPS細胞が発見されたニュースを聞き、車を作っている場合ではないと感じるようになりました。そして、生物のエンジニアリングが21世紀の仕事になるのではないかと考えて、大学からは生物学を学び始めました。最初は遺伝子工学から始めました。しかしながら、遺伝子工学は、実際には実用化にほど遠いという感じを得ました。と言いますのは、車は、パーツの一つ一つの機能は判明しています。しかし、遺伝子の場合は、パーツ一つ一つの機能が判明していないという状況の中で、まだまだ、仕事としては難しいのではないかというときに、画像診断に出会いました。いまだに、人が目視したり、一つ一つ数えたりの世界で、この業界は自動化が早いと思いました。顕微鏡で細胞を観察して画像を解析する技術が重要だとわかって、会社を作ろうと思いました。事業として大きくしないと期待に応えられないと考えたからです。
島原 佑基 社長は、これまで、どのような経緯で、エルピクセル株式会社の代表になられましたか?
大学院を修了して、2013年にビジネス経験と海外経験を積むためにグリーという企業に入社しました。当時は世界戦略に最も積極的な企業でした。しかし、私が入社した後は事業を縮小していく時期で、人員整理などもあった時期でした。トータル1年間勤務し、社会人としてのスキルは学ばせていただきました。そのあとに、海外勤務を経験したいと考えて、KLabに入社しました。そこでは、海外事業開発などの経験を積ませていただきました。同時に、入社から2か月後に副業でエルピクセルを作りました。副業が大丈夫な会社だったこともあります。
なぜ、会社を興したかと言いますと、大学院の研究室に戻って話を聞くと、共同研究の依頼を40件も抱えているということでした。市場はあることは確信し、最初の1年間は給料ゼロで好きなことをやろうということで始めました。少し、お金が残ったので2年目は採用を始め、少しずつ規模を大きくしてきました。
なぜ、起業家になろうと思われましたか?
ゼロベースで、自分のキャリアを考えて起業する方が楽しいだろうと思いました。
EIRL(エイル)の商品内容・開発・販売の仕組みを説明していただけますか?
脳白質の体積計測など、EIRLの一部機能は認証が認可が下りたところで、これからというところです。今夏以降、一気に拡販が出来ることを目指して、今まさに準備を進めています。
現在の画像解析の方法としては、共同研究先の医療機関にソフトウェアをインストールして、各医療機関にてAI画像解析を行って頂いています。クラウド連携を使っている医療機関ではクラウドからのアクセスも可能です。認証を取得している機能については、現在は主として、医療機関ダイレクトで、営業活動をしています。PACSにつなぎこんで、使っていただいております。主として、大学病院、クリニックさんと個別契約させていただいています。
エルピクセル株式会社社内で現在、行われている事業は、どのようなものがございますか?
医療画像診断支援(EIRL)
X線、CT、MRI、内視鏡などの画像解析により、医師の診断支援を行う技術を開発中です。
IMACEL(イマセル)
製薬、基礎研究などライフサイエンス分野の細胞画像解析プラットフォームです。
これを元に、製薬会社などの民間企業と共同研究を進めています。
ImaChek(イマチェック)
論文に使われる画像の盗用や加工など不正をチェックするシステムです。これはライフサイエンスのことを理解し、なおかつ、画像解析が出来るのは自分たちだと思ったのがきっかけでスタートした事業です。研究機関、製薬会社など論文を書くところが対象になります。
これまでは、どのように資金調達を行っていらっしゃいましたか?
最初の資金調達は使命感から行いました。5年前機械学習は誰も理解してくれませんでした。画像解析もフォトショップと何が違うのですか?と聞かれたりしました。リテラシーが低い状態で仕事をすることは大変でした。しかし、ここ4年で状況は一変し、AIで何かできないか?と多くの人から聞かれるようになりました。期待が大きくなりました。そして、潜在的な課題であった、医療の中の単純作業である画像解析が顕在化するようになってきました。画像解析で行う分類は機械学習が一番得意な分野です。しかし、医療業界は参入障壁が高い分野で、時間と費用がかかります。あるとき、シリコンバレーに2週間行く機会を得て、破壊的イノベーションとベンチャー投資のことを学びました。
期待が大きい分野だからこそ、腰を据えて、長期の視点で資金調達することを選びました。1回目の資金調達では相性が合いそうな人に出資して頂くことを選択しました。
2回目は、より戦略的に行いました。医療AIの普及のためには、強力なパートナーが必要と考えました。大企業との連携が必要と考えていた時に、オリンパスさん、富士フィルムさん、キャノンメディカルさんも出資していただくことになりました。
今後の目指す方向性、将来像をお知らせ頂けますか?
この数年は医療AIにどれくらい価値があるのかを見定めつつ事業を最大化していきたいと考えております。同時に、製薬、再生医療の分野にも注目しています。iPS細胞にも、注目しています。弊社の持つ、高度な情報処理能力を持って、再生医療研究を下支えしたいと考えています。
再生医療は、いずれ、再生医療工場ができると考えています。細胞の管理システムなども弊社で出来るのではないかと思います。今は、救えない人も、救える再生医療を目指して行きたいです。
ボストンでは拠点を持っています。そのエコシステムでネットワーキング、共同研究先も探しています。同時に、FDAの取得が当面の目標です。
海外では、東南アジアの市場も見ています。日本で完全自動運転の普及は比較的難しいですが、更地からデザインするなら簡単に出来るように、現在医療のレベルが未発達の場所で新たな画像診断はいち早く導入できるのではないかと考えています。
21世紀はライフサイエンスとITの時代と考えています。21世紀は最もイノベーティブなことがこの領域で起きると思っています。各分野の専門家が集まって多様な研究をして学際的な分野でイノベーションを起こしていく集団にしていきたいです。大企業でもない、アカデミックでもない機関、例えばかつての大学のような形、目的を持たない探求が出来る第3の場所を作りたいというのがあります。大企業でもできない、大学でもできないことを、大学発ベンチャーで出来るロールモデルを作っていきたいと考えています。Googleは一つの理想形だと思っています。優秀な研究者は、大学よりも、Googleで研究したほうが好きなことが出来るというところがいいです。大規模な計算機を使って研究が出来るということは素晴らしいと思います。
島原社長、ご多忙の中、インタビューに答えて頂き感謝しております。
今回の取材は、これまで、長く研究者として遺伝子工学を研究されてきた島原社長にお聞きしました。起業家として、画像解析分野で会社設立をされ、現在は会社経営に携わり、順調に業績を伸ばされています。大手企業との共同研究なども開始され、今後の飛躍が期待されます。大変印象に残った部分は、大学発ベンチャーの日本版ロールモデルを作りたいという部分でしょうか。どうしても、日本人は“寄らば大樹の影、長い者には巻かれろ”的な思想の人が多いと思います。しかし、島原社長はそのような安定思想はではなく、常に新しい仕事と働き方を求めていると感じました。今後は、研究者支援の分野も含めて複合的な領域で業績を伸ばしていかれることと思いました。
(取材・執筆:五十嵐 淳哉)
エルピクセル株式会社
代表取締役
島原 佑基
1987年生まれ
宮崎都出身
東京大学大学院修士(生命科学)。大学ではMITで行われる合成生物学の大会iGEMに出場(銅賞)。研究テーマは人工光合成、のちに細胞小器官の画像解析とシミュレーション。グリー株式会社に入社し、事業戦略本部のちに人事戦略部門に従事。他IT企業では海外事業開発部にて欧米・アジアの各社との業務提携契約等を推進。2014年3月に研究室のメンバー3名でエルピクセル株式会社創業。現在、ライフサイエンス領域における画像解析システムの研究開発をはじめ、研究者教育にも力を入れている。“始動 Next Innovator 2015(経済産業省)”シリコンバレー派遣選抜。“Forbes 30 Under 30 Asia(2017)”Healthcare & Science部門のTopに選ばれる。
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